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獣の奏者エリン

第46話 ふたりの絆

竪琴を弾くエリン。
何かに警戒する王獣たち。
王獣舎の外で倒れているイアルを見つけるエリン。
うなり声を上げる王獣達の前でイアルを手当てするエリン。
イアルの傷口を縫うエリン。
うなるのをやめた王獣。
子供の頃を思い出すイアル。母親を呼ぼうとするイアル。
イアルが気がついた時には傍でエリンがイアルの手を握って眠っている。
追われているのですぐ出て行くというイアル。
ダミヤがハルミヤを暗殺しようとしていたことと、キリクがダミヤの一味だったことをイアルから聞かされるエリン。
満足に動けない状態で出て行こうとするイアルを「信じて頼ってくださったのなら、最後まで頼ってください。」と引き止めるエリン。
キリクが王獣舎の外に。イアルが来るとしたらここしかないと気づいていた。
エリンの清らかな音色を聞いていたいので竪琴を弾いてくれるように頼むイアル。
剣に手をかけるも、夜明けの鳥を竪琴を弾くエリンと傍にいるイアルの姿に踏み込めないキリク。
キリク、その場を離れる。
部下を引き連れて馬で追ってきたダミヤに、取り逃がしたと告げるキリク。
ダミヤ「肝心な時に役に立たない男だ。お前には失望した。どこへなりと消えるがいい。血のあとはラザルに向かっている。」
うなり始める王獣達。
追っ手が来たと外に出ようとするイアルに、自分が見て来ると言うエリン。
追っ手に囲まれている。
イアルに、自分を信じるように言うエリン。
サイガムルの兵士にわらに血のあとがあるのを見つけられる。
ダミヤがやってきた。
ダミヤ「エリン。イアルはどこだね?隠しても仕方が無いだろう。イアルがここにいたのは一目瞭然だよ。そなたはあの男が好きか?まあいい。かばいたければかばうがいい。じきに見つかるだろう。」
ダミヤ「大粒金の詰まった袋一つで売られた哀れな男。真王を守る盾として生きることしかできぬ男。王族に連なる者の偉大さを解らぬバカな男。あの男にはもう何もできはしない。しかし、そなたは違う。王獣を操り、誰よりも賢い。ならばなおさら、もう運命に従うしかないと解っているだろう。」
見つからず、他を当たることにしたダミヤと兵士達。
イアル、リランの下に隠れていた。
イアル「お前に助けられるのは、2度目だな。俺を隠してくれるとは…。この王獣達は、心の奥深い部分で、あなたを信じているのだな。」エリン「私が、あなたを警戒していないからだと思います。王獣は、恐ろしいくらい敏感に人の感情を察するのです。」イアル「ラザル保護場で見せた、竪琴の実演。オウリの竪琴に反応しなかったのは、そのせいか。」エリン「あの時のこと、知っておられたのですか?」イアル「仲間から聞いた。」エリン「あの方の、王獣に対する恐怖が、伝わったせいかも知れませんが、王獣を育てる時、あの方は何度も音なし笛を吹いたはずです。王獣は、自分を硬直させた相手には、決して心を開きません。だから、ここの王獣も、私の竪琴には応えて、あの方の竪琴には応えなかったのです。アクン・メ・チャイや、霧の民の秘法などではないのです。」イアル「そうだったのか。」
エリン「私は、リランを野にいる時と同じように生きさせたくて、音なし笛や特滋水を使わないできました。しかし、そうやって作った絆が今、戦の道具として利用されようとしているのなら、私一人がいなくなれば済むのだと、ずっと思っていました。でも、ここで私が死んでも、人々は殺し合いを続け、闘蛇は戦の道具として使い捨てられ、王獣は権威を守る道具として、放牧場で囚われ続ける。」イアル「そうならないことが、あなたの夢なんだな。」
イアル「眠っていた時、俺は夢を見た。父が竪琴を弾いている夢だった。父は腕のいい竪琴職人で、父の作る竪琴は優しい音色がしたんだ。いつか、俺も父のような竪琴職人になって、一緒に竪琴を作って、母を楽にさせたいと思っていた。」エリン「どうしてセ・ザンに?」イアル「生きるためだ。父が死に、幼い妹がいて、俺がセ・ザンになれば、一生食うに困らない金がもらえた。」エリン「私、イアルさんの奏でる竪琴の音色を聴いたとき、とても温かいものを感じました。死んだ母と一緒にいるような、そんな気持ちを…。」
エリン「追われているなら、セ・ザンではなくなったのでしょう?これからは、あなたが望む通り生きられるのではないのですか?」イアル「俺が…望む?」エリン「お父さんのように竪琴を作って。」イアル「家族がいて…。」
イアル「そんな生き方は、俺にはもうできない。セ・ザンは生きた盾だ。真王とその子孫を守るためだけに生きる。如何なる弱みも持たぬよう、親兄弟とも絆を断ち、妻を持つことも許されない。それに俺は、多くの命を奪ってきた。今も、命を奪った者たちの姿が、頭に現れる。人を殺すとはそういう事だ。俺はその思いから、逃れたいとは思わない。大公軍の兵士達も、そういう思いを味わってきたはずだ。血と恐怖に満ちた戦で、この国は守られてきたんだ。」
エリン「あなたの生き方は、まるで闘蛇のよう。卵のうちにお母さんから引き離されて、ひたすら戦うために育てられた孤独な獣。でも、あなたは闘蛇とは違う。人に操られた道具などではないはずです。」イアル「そうだな。」
エリン「イアルさん。セィミヤ様に、ダミヤ様のことを伝えたら…。セィミヤ様にお会いする方法はないのでしょうか?」
イアル「そうか。あなたならできるかもしれない。」エリン「え?」イアル「やってくれるか。」エリン「はい、私にできることなら。」イアル「俺も、あなたが救ってくれたこの手で、まだ守れるものがあると信じて闘う。亡くなったハルミヤ様のためにも、俺は最後まで戦う。」
涙を流すエリン。
エリン「あなたは、そのように真王陛下のためだけに、生きてこられたのですね。本当は家族思いのやさしい人なのに…。もうあなたを縛る音なし笛は無くなったんですよ。どうして…、どうしてこの右手で、自分の幸せをつかむことを考えないんですか?」
涙を流すイアル。エリンを抱きしめるイアル。